【柿沼弘子の勝手にシネマ


母の眠り

監督:カール・フランクリン
出演:メリル・ストリープ、レニー・ゼルウィガー、ウィリアム・ハート

18th Oct. 2000


 主人公エレン(レニー・ゼルウィガー)はハーバード大学を卒業し、ニューヨークでジャーナリストとして働くキャリアウーマン。ある日突然、田舎の父親(ウィリアム・ハート)から、手術をうける母親(メリル・ストリープ)の看病のため、家に戻るよう言われる。会社では最近、大物政治家の汚職事件に関わる記事を任されたばかりで、こんなチャンスを逃す手はない。仕事を取るか母親の看病を取るか、選択をせまられるエレン。結局、書類を持ち帰り、家で仕事をしながら看病をすることにした。文学者で大学教授である父親に憧れ、人生の目標としてきたエレン。自分も有能なジャーナリストになることを夢見て、幼い頃から努力を積み重ねてきた。そんな勉強さえしていればよかったエレンに家事などできるわけがない。悪戦苦闘しながら、病気の母親に変わって料理を作り、掃除をする。そんなエレンとは対照的に母親のカレンは典型的な専業主婦だ。家族のために料理や洗濯や掃除をすることに幸せを感じている。そして近所の主婦クラブ(よくあるおばちゃんの集まりみたいなもの)の奉仕活動に精を出している。大都会で飛び回っている自分と比較し、こんな母親をエレンは平凡で狭い世界で生きていると内心馬鹿にしていた。エレンの看病もむなしく、母親の容体は次第に悪くなっていく。紅葉の秋から木枯らしの冬、そして美しいクリスマスの夜へ。うつろいゆく季節の中で、死を目前にした母親と見つめ合うエレンは、決して人を責めず、裁かず、一家を常に大きな愛情で守ってきた母の真実の姿を知る。そして、母は一つの謎を残して眠りについた。
 私は、死ぬ少し前に母親がエレンに残した言葉に感動した。「幸せになりたかったら、いま手の中にあるものを愛しなさい。私の願いはあなたが幸せになることよ。」私もエレンと同じように、あるものを大事にせず、無いものばかりを手に入れようとしていた。人間は探求心がなくなったらおしまいだと言うけれど、あるものを、ないがしろにして他のものを求めるくらいなら、新しいものなど求めないほうがよっぽどましだ。この言葉は、ニューヨークでバリバリキャリアウーマンとして働いているエレンより専業主婦である母親のほうを賢明に見せた。
 私は今、専業主婦だ。つい最近まではサラリーマンだった。エレンのようにバリバリキャリアではないが、総合職で結構仕事もきつかった。やがて結婚するとやることが増えて(結婚前は減ると思っていたのだが…)、体力的にも厳しくなった。そんな時いつも思うのは、ご飯を作ってくれて掃除や洗濯をしてくれる奥さんがいてくれたらなぁ、ということだった。そういう人がいてくれたら、おそらく私はまだ働いていたかもしれない。そんなこともあって、私の主婦に対する評価は高い。だから「くたばれ専業主婦」の著者石原里紗は大嫌いだ。
 この作品を見ようと思ったきっかけは、予告編を見て、主人公のエレンが自分に近い考え方を持っていると思ったから。しかし、ただのキャリアウーマンと家族の葛藤を描いた作品だと思っていたら、意外と奥が深かった。それから、さすがアカデミー女優メリル・ストリープだ。私は彼女の演技に何度も泣かされてしまった。映画を見て泣いたのは久し振りだった。レニー・ゼルウィガーの優等生過ぎない演技も良かった。★★★★