【柿沼弘子の勝手にシネマ


ボーイズ・ドント・クライ


監督:キンバリー・ピアース
出演:ヒラリー・スワンク、クロエ・セヴィニー、ピーター・サースガード

th Sep. 2000

 「性同一性障害」という、私たちにとっては馴染みが薄く、理解し難い病気をテーマとしたこの作品は、アメリカの中でも最も保守的な地域で起こった実話をもとに作られています。女流監督のキンバリー・ピアースは、この作品が初の劇場用長編映画となりました。この作品で性同一性障害を持つ女性を演じたヒラリー・スワンクはアカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞ほか今年のあらゆる映画祭の主演女優賞を総なめにしました。以前、日本でも性同一性障害と診断された女性が性転換手術をしたというニュースを聞いたことがあります。しかし、この作品を見るまでこの病気は、私の想像を超えた世界の話でした。主人公のブランドン(ヒラリー・スワンク)は肉体的には女性ですが、精神的には男性という人物。男装した彼(女)はネブラスカの田舎町で不良グループと親交を結び、そのひとりラナ(クロエ・セヴィニー)と恋に落ちる。しかしブランドンが女であることがばれた時、彼(女)を取り巻く人間関係は崩れ、すべてが悲劇に向かって進み始める。
 性同一性障害という着眼点は良かったと思います。しかし、この病気を取り巻く状況があまりにも残酷に描かれ過ぎていて、主人公が気の毒で仕方ありませんでした。作り手はおそらく「この病気の現状」をストレートに伝えたかっただけなのかもしれませんが、あまりにも残酷なシーンに、何度も目を覆ってしまいました。この病気に明るい未来は無く、かえってこの病気がもたらす不幸だけが強調されていました。主人公はこの病気のために社会の表舞台を堂々と歩くことができません。彼(女)をとりまく人々もこの病気がもたらす不幸のために、悲しみの底に沈んでいます。でも、世の中にはこういう類いの病気が存在し、それによってこの映画のような体験をする人がいるのだ、ということを世間一般に知らしめるのには大きく貢献していると思います。ともすれば、我々はこのような病気に対しては偏見を持ちがちですが、この作品で紹介されたことによって、この病気に対する考え方が大きく変わったことは否定できません。この作品に登場するブランドン以外の人は性同一性障害という病気とレズビアン(あるいはホモセクシャル)との違いがわかりません。(まあ、無理もないことでしょう。)作品の中でラナの母親が、ブランドンのせいで娘がレズビアンになってしまったのではないかと心配して、きつくあたる場面がありますが、これはまさしくこの病気に対する認識の薄さから来るものでしょう。また、女であることがばれてレイプされ、警察の事情聴取を受けているときのブランドンに対する警察の尋問の仕方にも、この病気への認識の薄さがあらわれています。そして、衝撃的なラストシーン。見終わった後、嫌悪感と疲労感だけが残りました。
 作品の内容とは関係ありませんが、昔(といっても4年くらい前)、『キッズ』という映画で不良少女を演じていたクロエ・セヴィニー。今回ラナという役で登場していましたが、期待通りのけばい女に成長していました。それから子役のころから生理的に嫌いだったブレンダン・セクストン・サードも、大人になってますます気色悪さを増していました。いかれた男を演じさせたらこの人の右に出るものはいないでしょう。それに比べ、男装したヒラリー・スワンクはめちゃくちゃ私のタイプです。声や表情など、女ということを忘れさせてしまう演技は見事でした。それから、笑った時のヒラリー・スワンクの口もとがマット・デイモンに似ていると思うのは私だけでしょうか。私と同じ意見の方メールください。★★★