【柿沼弘子の勝手にシネマ】


ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ


監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:ライ・クーダー、イブライム・フェレール、コンパイ・セグンド

th Aug. 2000

 アメリカ・ロック界の異端児ライ・クーダーがキューバ音楽界の古老たちを集めて制作したアルバム『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』が世界中で大ヒットを記録し、1997年グラミー賞を受賞した。キューバ音楽について「初めて耳にした瞬間から、素晴らしい音楽だと思った。」と語るヴィム・ヴェンダースは、翌年ライ・クーダーと共に撮影クルーを伴ってキューバを訪れ、キューバ・ミュージシャンたちのセクシーな音楽と彼らの人生の哀歓をフィルムに収めた。そして出来上がったのがこの『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』です。映画はブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブの主だったミュージシャン一人一人にスポットをあて、キューバの街を歩きながら自身の出生や音楽との出会いなどを語るシーンと、アルバムのレコーディングとニューヨークのカーネギーホールで行われたライブシーンを交互に織り交ぜた構成になっています。彼らはジャズの世界で例えるならば、バディ・ボールデン(というのは言い過ぎかな?)やルイ・アームストロングといった、音楽界ではすでに歴史上の人物となってしまった(つまり、生きているのか死んでいるのかもわからないような過去の人物)ように思われていましたが、そんな彼らを再びステージへ呼び戻したライ・クーダーとヴィム・ヴェンダースの功績はかなり大きいものといえるでしょう。
彼らの飾らない普段着の姿と、その何気ない日常から生まれた美しい音楽は印象的で、私は今までキューバ音楽はほとんど聞いたことがなかったのですが、この作品を見て一発で魅了されてしまいました。甘いメロディーにのせた恋の歌や、感情をストレートに表現した情熱的な詩がラテンのリズムとよく合っていて、なんといっても詩の美しさに感動しました。そしてメンバーは皆、かなりの高齢であるにもかかわらず、恐ろしく元気で、歌声もパワフルで、演奏の腕もまったく衰えることを知りません。92歳になるコンパイ・セグンドなどは「ブラック・スープ」という自家製精力スープのおかげで、この歳にして6人目の子作りに励んでいるとのこと。彼らにあやかろうというわけではないのでしょうが、年配の人たちが結構見に来ていたのには驚きました。
 彼らのステージを観ていると、歌うことが好きだから、ピアノを弾くのが好きだから、ギターを弾くのが好きだからやっているのだという感じがありありと出ていて、とても羨ましく感じました。本当に心から音楽を楽しんでいて、そんな彼らを見ている私たちまで爽快な気分にさせてくれます。決して商売のためとか、有名になりたいからとか、金もうけのためにやっているのではなく、純粋に音楽が好きで、好きな音楽をやって生活しているという、ただそれだけなのです。何とも羨ましい話です。私の学生時代の知り合いに歌がうまくて歌手になった人がいたけれど、最初の頃は自分の歌いたい曲が歌えず、レコード会社の方針やイメージを押し付けられて悩んでいたという話を聞いたことがあります。それを聞いた時、私は好きなことなんて商売にするものじゃないなと思いました。なんだか夢の無い話ですけれど・・・。最後に、カーネギーホールでのコンサートを終えたメンバーが、ニューヨーク見物をする場面がありました。キューバとは違う華やかな大都会に、純粋に目を丸くして驚いている彼らの姿がほほえましく感じられました。そう言えば、こんどブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブが来日して、9月3日に東京国際フォーラムでコンサートをやるそうです。見に行きたいけど、多分無理だろうなぁ〜。★★★★