【柿沼弘子の勝手にシネマ】

オール・アバウト・マイ・マザー


監督:ペドロ・アルモドバル
出演:セシリア・ロス、マリサ・パレデス、ペネロペ・クルス

21st Jul. 2000

 「この映画を観て何とも感じない人は、心臓専門医に診てもらうことをお薦めする。」というのが、この作品を評価したタイム誌のコメントですが、私はどうやら病院へ行った方がいいみたいです。他の多くの映画評論家たちも、こぞってこの作品を絶賛していますが、私の映画を見る目が無いのか、求めているものが違うのか、「そこまで言うかな?」が私の率直な感想です。たしかに百戦錬磨の評論家たちには、「銃なし、カーチェイスなし、ファックなし」の3拍子そろった(抜けた)スペイン映画は画期的でしょう。(別にハリウッド映画を批判してるわけではないのですが。)この作品は、余計なもので飾り立てなくても、人物の心の動きに焦点をあてるだけで、これだけ素晴らしいものが出来るのだということを証明しています。しかし、私のような子供を産み育てた経験の無い(あまり産みたいとも思わない)母性の欠落した女性や男性にとっては、この作品のテーマに共感するのは難しいかも知れません。一度母親になったことのある人の感動には到底及ばないでしょう。
この作品は、アカデミー賞外国語映画賞に輝いたペドロ・アルモドバル監督の最新作で、最愛の息子の死をきっかけに、「女」としての自分を取り戻そうとする母親の、波乱万丈の人生を描いたヒューマン・ドラマです。息子を女手ひとつで育ててきた主人公マヌエラ。彼女が17年前に別れた夫のことを話そうと決めたその日、息子は交通事故であっけなく死んでしまう。失意のマヌエラは、ある決意を胸に秘めてバルセロナに向けて出発する。そこには青春時代を共に過ごした仲間たちがいる。そしてマヌエラの前の夫であるロラもそこにいる。マヌエラはそこで昔の知り合いとの交流の中で何かを見つけ出そうとするのですが、それが何なのか、それを見つけられたのか見つからなかったのか、結局私には分かりませんでした。
アルゼンチンの実力派女優セシリア・ロスほか、バイタリティ溢れるラテン系の女優たちが演じる女性たちは、みな一癖も二癖もある曲者ばかり。突然おかまになった夫と別れ、マドリードで移殖コーディネーターとして働く主人公マヌエラをはじめ、マヌエラの親友でおかまの娼婦アグラード。レズビアンの女優ウマ。ウマの仲間でドラッグ中毒の女優ニナ。おかまの子供を妊娠した修道女ロサ。どれもこれも人生をドロップアウトした強烈なキャラクターの持ち主ばかり。そして、お人好しで人情味に溢れ、自分のことよりも他人の事の方が心配というような人達ばかりなのです。知り合ったばかりの人を家に泊めたり、まるで母親のような愛情で知らない人にも面倒見が良い。自分を取り囲む人々すべてに母親のような愛情を持って接するのです。これは彼女たちが単にラテン系だからではなく、このような行動はおそらく女性の特質なのでしょう。監督はその辺りをうまく表現しています。それから、この作品で驚いたのが、装飾や衣装を含めた小道具のセンスの良さです。普段着のちょっとした着こなしから部屋の壁紙に至るまで、原色や濃い目の色使いを多用している割に下品にならず、かえってスペインの情熱的で美しいラテン女とピッタリはまっていました。私がこの作品をみて感動できる日はまだまだ先かも知れませんが(無かったりして・・・)、良い作品ですので、子供を持つ女性の方にはお勧めします。★★★