【柿沼弘子の勝手にシネマ】
アメリカン・ヒストリーX
監督:トニー・ケイ
出演:エドワード・ノートン、エドワード・ファーロング
20th Jun. 2000
「人はなぜ、憎しみあうのか?」という重いテーマをもとに、アメリカに根強く潜む人種差別問題を衝撃的に描いた作品。人種偏見を切り口に、憎悪という感情がいかに心に闇を築いていくかを描いています。エドワード・ノートンとエドワード・ファーロングが苦悩する兄弟の役を見事に演じています。『I Love ペッカー』のカメラおたく青年とはうって変わって、短髪で痩せて精悍な顔付きのエドワード・ファーロングがかっこよかったです。あくまでも主人公は兄(ノートン)ですが、弟(ファーロング)がストーリーテラー的役割をして物語は進んでいきます。兄の行動と心理を分析しながら、そこに潜む闇を見つけていくという設定です。
デレク(ノートン)はかつて高校の優等生だった青年。その頃は人種差別なんてものは無縁の話でした。しかし、白人至上主義者の父親がある日突然黒人に襲われ殺される。その事件をきっかけに、彼自身も黒人に対して強い憎しみを抱くようになり、それはやがて、過激な白人至上主義の活動へとエスカレートしていく。限界まで鍛え上げた肉体の左胸にはナチス崇拝を象徴するハーケンクロイツの刺青を刻み込み、マイノリティを攻撃する事に怒りのはけ口を見出すデレク。そんな彼に強烈な憧れを抱く弟ダニー(ファーロング)は、兄のデレクが黒人に対するエスカレートした憎悪から殺人を犯し、刑務所に入れられた後、兄の意志を受け継ぐかのようにこの活動組織に足を踏み入れていく。そんなある日、ダニーは高校の課題レポートで、ヒトラーの著書『我が闘争』の感想文を提出し、校長からレポートを書き直すよう言われる。このレポートのタイトルがこの映画のタイトル『アメリカン・ヒストリーX』なのです。そして3年の歳月を経て、兄のデレクが出所した。体も心も変わり果てた兄の姿を見て困惑するダニー。この後、この二人の兄弟に想像を絶する事件が待ち受けていた。
この作品のなかでデレクのかつての高校の担任教師(黒人)が、怒りに打ち震えるデレクに対し「怒りは人を決して幸せにはしない。」というシーンに感動しました。しかし別の場面では「今の状況を変えようと思うなら、立ち上がれ。」と言っているのですが、なんとなく矛盾するこの教師の発言は私にはどうも偽善的としか感じられませんでした。いくら白人が人種差別撤廃を唱えても偽善にしか見えず、黒人が有色人種の優性を説いたとしても強がりにしか見えない。そう感じてしまう私の頭の中にも人種差別の意識は確かにあるように感じられます。この作品は見る人に問題を投げかけてはいるけれど、決して解決はしていません。正しい道は結局自分で選べということなのでしょうか。白人至上主義と銘打って、単なる不満のはけ口として黒人に暴力をふるう白人たち。そんな場面をみると白人黒人に限らず愚か者はどんな人種にもいることがわかります。この作品を見てわかることは、白人であろうと黒人であろうと、どうしようもない奴はどんな人種にも関係なく存在するのだということ。そして、人間の狂気は憎しみから生まれるということ。この作品の随所に垣間見られるアメリカの苦悩は、日頃人種差別意識の薄い我々日本人にも感じ取ることができます。終わりの見えない展開に、衝撃的なラストシーンが印象的でした。テーマは重いけれど、歯切れの良いテンポと映像で、久し振りに良い作品に出会えました。★★★★