【柿沼弘子の勝手にシネマ】
海の上のピアニスト
監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ティム・ロス、プルート・テイラー・ヴィンス
2nd Jun. 2000
この作品はずいぶん前に公開が終わってしまった作品で、公開終了した名画ばかりを上映する劇場として有名な飯田橋のギンレイホールで上映していました。こちらの劇場を訪れたのは今回が初めてでした。名画座というだけあって、公開終了した作品の上映でもかなりの混雑で、時間ぎりぎりに入った私が座れたのは前から2番目の左端の席でした。こんなにもポジションの悪い所で見たのは初めてです。近頃の劇場はどこの席に座っても画面が均一に見えるように工夫されているものですが、さすがにこの古い劇場ではスクリーンを左下から見上げるかたちで、歪んだ映像を見ることになってしまいました。おまけに座席も狭く、椅子が少し傾いていて座り心地は最悪でした。従業員の態度や上映する作品など、ソフト面は良いのですが、ハード面をもう少しなんとかして欲しいところです。
今回の作品は、監督が『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレ、主演がティム・ロス、音楽がエンニオ・モリコーネということで、映画ファンにはたまらない組み合わせとなっています。一生を海の上で過ごしたと云われる伝説のピアニストの生涯を綴った物語です。1900年、豪華客船ヴァージニア号の船内に、置き去りにされた赤ちゃんが見つかります。彼を見つけた黒人機関士はその赤ちゃんに“ナインティーン・ハンドレッド”と名付け、我が子のように可愛がります。なぜ、その機関士が赤ちゃんを育てていこうと決意したのかは、?ですが、これはファンタジーなので、あまり深く追求しないことにします。そして8歳となった彼は生まれて初めてピアノに触れるのですが、そこで類いまれなる才能を発揮します。それまでは、毎晩パーティーで演奏されるピアノを傍で眺めているだけだった彼は、見ているだけで弾き方をマスターしてしまったのでしょうか、突然すらすらとピアノを弾きだすのです。ピアノの経験者から言えば「そんなことはありえない」のですが、ファンタジーに矛盾はつきものなのです。そして彼はついに船の楽団ピアニストとして成長します。彼には乗客の心を瞬時に読み取り、美しい旋律に変えるという才能があるのです。そして彼の噂はアメリカ本土でも広がり、ついに“ジャズを作った男”と呼ばれる人気ジャズピアニストとの対決がおこなわれます。このように数々の伝説を残して“ナインティーン・ハンドレッド”は一度も船から下りることなく一生を終えるのですが、なぜ彼は船から下りようとしないのか、というのがこの作品の最大のポイントとなっています。それからこの作品の一番の見せ場となっている、嵐に揺れる船内で、ピアノのストッパーをはずして、まるで遊園地のコーヒーカップのように部屋中をくるくる回りながら演奏するシーンは見事でした。全編を流れる詩的なイメージとエンニオ・モリコーネの素晴らしい音楽が見事なハーモニーを奏でていました。★★★