【柿沼弘子の勝手にシネマ】
イグジステンズ
監督・脚本:デビッド・クローネンバーグ
出演:ジェニファー・ジェイソン・リー、ジュード・ロウ、イアン・ホルム
19th May 2000
デイヴィッド・リンチの『ストレイト・ストーリー』を見たくて、会社を猛ダッシュで抜け出して来たのに、シネスイッチ銀座の前はすでに長蛇の列でした。金曜日は女性割引デーということもあり、予想どおりの混雑だったので、すぐに第2候補の丸の内ピカデリー『イグジステンズ』に向かいました。タイトルの「イグジステンズ」とはアンテナ社の開発した新作ゲームの商品名で、究極の仮想現実の世界を体感できる未来型ゲームのことです。おそらく「実在する」という意味の単語から派生していると思います。作風は相変わらず「グロ」ーネンバーグで、「エグイ」「グロイ」「エロイ」のオンパレードでした。前作の『クラッシュ』よりもグロさ倍増で、ファンにはたまらない仕上がりになっています。このゲームをするには背中に「バイオポート」という穴を開け、そこに突然変異の両生類の神経細胞で作った「ゲームポッド」という、いわゆるコントローラーを差し込みます。脊髄の神経に直接ゲームをダウンロードすることにより、より一層リアルなゲームが体験できるという仕組みなのです。
ストーリーは「イグジステンズ」の新作発表会及び体験会の場面から始まります。警備を担当するゲーム会社の新人社員、テッド・パイクル(ジュード・ロウ)が見守る中、このゲームの制作者である天才ゲーム・デザイナー、アレグラ・ゲラー(ジェニファー・ジェイソン・リー)がステージに上がり、興奮気味の客席から体験者が幾人か選ばれます。全員がゲームポッドに接続しゲームのダウンロードが始まると、突然最前列の男がゲラーに発砲。ライバルゲーム会社による組織がらみのゲラー暗殺指令が下されたらしいのです。さらにその時の衝撃でオリジナルのイグジステンズが入っていた彼女のゲームポッドが損傷を受け、さらにウイルスにも感染してしまう。感染したゲームポッドにゲラーが頬を摺り寄せて涙を流し、いとおしそうにワクチンを注射する場面は、少し引いてしまいました。(冷静になると、ばっかじゃないの?と言いたくなるような場面です。)そして事件の真相に迫るべく、二人はますます仮想現実の世界に身を投じていくのです。
仮想世界をさまようテッドとゲラーとの会話の中で、「どうしてあいつを殺したんだ!」という質問に対し、「嫌な奴だから殺したんだ。」という場面があり、すごく嫌な気分にさせられてしまいました。確かに仮想世界の中で何をやろうと自由だけど、ちょっと危険な会話だと思うのは私だけでしょうか。その日の帰り、駅のホームで電車を待っている時、目の前に17歳くらいの少年がうつむいて立っていたので、一瞬、こいつに刺されるんじゃないかという、余計な心配をしてしまいました。嫌な世の中ですね。(私の考え過ぎか…。)自分の作ったゲームを絶賛し、自分の作ったゲームをやったことのない人間をバカにさえしていたゲーム・デザイナーが、結局はそのゲームによって現実と虚構を見失ったゲーマー達から命を狙われ、自分自身も現実を見失っていくという愚かさを描いた作品で、なんだか今の世の中に警鐘を鳴らすような仕上がりになっています。みなさんも、ゲームのやり過ぎには注意しましょうね。★★★★