【柿沼弘子の勝手にシネマ】
マグノリア
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ジェレミー・ブラックマン、トム・クルーズ
19th Apr. 2000
この作品は『ブギー・ナイツ』のポール・トーマス・アンダーソン監督が、LA郊外に暮らす12人の老若男女の絡み合う人生を味わい深く描いた群像劇です。ポルノ男優の栄枯盛衰を描いた前作の『ブギー・ナイツ』は私にはダメでしたが、薄っぺらな前作とはうって変わって深みのある作品に仕上がっていました。ちなみに監督は1970年生まれで私と同い年です。この作品は誰が主人公という訳でもなく、12人ものキャラクターの物語が同時に進んでいきます。死の床にある老人、その息子であり出生の秘密を持つカリスマ教祖、その老人を看護する若い妻と介護人、クイズ番組の司会者、その解答者である天才少年、かつてその番組でチャンピオンであったが大人になり凡人になってしまった男、勤務中に女に惚れた警官、ヤク中の少女など、それぞれが何らかの不幸を抱えて生きています。そして、無関係に見えるそれぞれの人生が、実は何らかの関わりを持っているのです。それは同じような不幸な境遇を持つ者同士であったり、不幸な親子であったり、不幸な夫婦であったり、不幸な恋人同士であったりするのです。それぞれの怒りと悲しみ、驚愕と感動が至る所に散りばめられ、傷つかずには生きていられない現代人の心が、いとおしく胸に迫ってきます。彼らはみんな「不幸」という共通項を持っていて、徐々に救いようの無いどん底の不幸へと向かっていくのです。そして、ラストに彼らの前に、世にも不思議な出来事が起こるのです。
先ほども言ったように、この作品には思いもよらない衝撃的なラストシーンがあるのですが、この衝撃のラストは一体何を意味していたのでしょうか。んー。やはり私には難し過ぎました。なんだか良く分からないまま終わってしまいました。なんとなく感じたのは、このラストシーンを境にそれぞれの状況が僅かながら上方へ向かっていくような気配です。それは目に見えてはっきりとこう変わったというのではないのですが、なんとなくそんな気配を感じました。
この作品でゴールデン・グローブ助演男優賞を取ったトム・クルーズの珍しい“汚れ役”は見物です。女の口説き方を説くカリスマ教祖の役で、甘いマスクを振り乱して熱弁を振るう姿は、最初トム・クルーズだと気が付かないほどでした。複雑な心情を父親に抱く青年を好演していました。というわけで、最初から最後まで肩に力が入ったまま3時間、息を抜く間のない作品で私は疲れてしまいました。★★★