【柿沼弘子の勝手にシネマ】


ラスベガスをやっつけろ


監督:テリー・ギリアム
出演:ジョニー・デップ、ベニチオ・デル・トロ

17th Mar. 2000


 鬼才テリー・ギリアムが放つ超過激ロード・ムービー。『12モンキーズ』もかなり奇々怪々でエキセントリックな作品でしたが、今回も予想を遥かに上回る奇天烈さでした。伝説的ジャーナリストのハンター・S・トンプソンが、1971年に行ったラスベガスへの取材旅行を映画化した作品で、ジョニー・デップが荒くれ者のジャーナリスト役を見事に演じています。本作の背景となった70年代初頭は、ビートルズの解散、相次ぐロックスターの死、ベトナム戦争の泥沼化などの憂鬱な事件が頻発。60年代の“ラブ&ピース”が失われていく不安と混沌の時代を、ドラッグと共に享楽的に突っ走った主人公はまさに異端児です。そんな荒くれジャーナリストの姿を追いながら、70年代アメリカの狂気的なドラッグ文化を再現しています。
 スポーツ誌の依頼でレースを取材するため、ラスベガスへ行くことになったジャーナリストのラウルと弁護士ゴンゾー。ふたりは極度のヤク中で、車にはありとあらゆるドラッグを詰めたアタッシュケースを積んでいます。現地に着くなりドラッグをキメたふたりは、恐竜などが現れる幻覚の世界をさまよい、ホテルの部屋を破壊していきます。取材とは名ばかりで、ドラッグ漬けのふたりは昼夜構わずホテル周辺で乱痴気騒ぎを繰り広げます。ひたすらシュールな妄想・幻覚が浮かび上がっては消え、極彩色の世界が延々と繰り返されていきます。ギリアムならではのシュールでポップな映像が印象的でした。
 やはり何と言っても圧巻はジョニー・デップの演技で、自分を捨てた演技が見事でした。どことなく瞳に陰のある役柄が多い彼ですが、『ギルバート・グレイプ』の頃の純朴青年の面影はどこへやら。近頃ではティム・バートンと組んで『シザーハンズ』や『スリーピーホロウ』で、やたらと変幻自在のカメレオン俳優ぶりを見せていますが、ますます変態度がアップしたように感じられます。とは言っても、やはり整ったお顔立ちのジョニー・デップは魅力的で、への字口にくわえタバコが素敵でした。黄色いサングラスもとてもお似合いでした。でも、いくらハンター・トンプソンの頭が薄いからといって、禿げづらは勘弁してほしかった。最初、帽子をかぶっていたので気づきませんでしたが、ラリってひっくり返って帽子が脱げた瞬間、ガクンとしました。いい男が台無しです。でも将来の姿だと思うとちょっぴりイメージダウンです。でもやっぱりかっこいい人はかっこいいのです。
 この作品はただひたすら彼らの見た幻覚の世界が延々と現れては消えるだけなのですが、我々は一緒になって幻覚の疑似体験を楽しむことができます。物語に深い意味は無く、サイケな映像を楽しむ映画になっています。ただでさえお伽の国のラスベガスが、薬をやることでより一層華やかに、そしてクレイジーに見えてきます。もしかしたら、ギリアムはラスベガスという街は、薬をやっている人にとっても、やっていない人にとっても、冷静になって見れば幻の世界なんだよと言いたかったのかも知れません。★★★★