【柿沼弘子の勝手にシネマ】

ミフネ

監督:ソーレン・クラウ・ヤコブセン
出演:アナス・ベアテルセン

th Mar. 2000

 デンマークの気鋭映画監督集団“ドグマ95が放つ3作め。幼い頃に三船敏郎ごっこをして遊んだ知的障害の兄とその弟が、再会を機に新たな心の絆を結んでいく様を、温かなユーモアを交えて綴った作品。ドグマ95とは、今日の映画にみられるある種の傾向に対抗する映画救済活動として、コペンハーゲンで1995年秋に結成された映画監督の集団。作家性を重視したコンセプトや、メイクアップ、セット、特撮、ドラマツルギー通りの見えすいたストーリー展開に反対し、登場人物の心の動きがプロットと合致するよう、映画から不純物を取り除くことを求めています。その目的は、10ヶ条の純潔の誓いを掲げて映画制作の原点に戻ること。最近では『ガンモ』のハーモニー・コリンが賛同者として加わり、その活動が実を結びつつあります。純潔の誓いには、撮影はロケーション撮影でなければならない、小道具やセットを持ち込んではならない、映像とは別のところで音を作り出してはならない、カメラは手持ちでなくてはならないなど、10の戒律があります。
 このような厳しい戒律を持つドグマ95ですが、私にはあまり画期的なものとは感じられませんでした。映画から不純物を取り除くことで、登場人物の心情描写に臨場感を持たせようとするのはいいのですが、はっきりとしたテーマがないと、ポイントのないぼやけた作品になってしまうと思うのです。この作品は映画人の間ではかなり高い評価を得ているようですが、私には何か物足りない、印象の薄い作品のように感じられました。見た後の印象がほとんど残らず、どの場面も映像として思い出すことができないのです。趣味の問題なのかも知れませんが、私が映画に求めているファンタジーをまったく感じることができませんでした。映画というものは非現実的であればあるほど面白いわけで、日常では味わうことのできない非現実な世界を求めて、私たちは劇場へ足を運ぶのですから、ドグマのようにまったくそれを取り去ってしまうのもどうかと思います。ドグマの作品として最初に日本で紹介された『セレブレーション』を私は見ることはできませんでしたが、今回と同じような感想を持つものなのかどうか、作品としてやはり気になるので、機会があれば見てみたいと思います。
 ドグマについての勝手な意見を言わせてもらいましたが、肝心なストーリーは、三船敏郎を崇拝する知的障害の兄と新婚早々に夫婦の危機を迎えた弟、彼らの世話をする元娼婦、反抗的なその弟が登場人物で、デンマークの片田舎で世間から孤立した彼らの交流を、ユーモアと切ない感動を交えて描いています。兄弟の絆の再生、恋人の絆の誕生をほのぼのと描き、ドグマ作品ならではの自然光と手持ちカメラのラフな映像が印象的でした。★★★