【柿沼弘子の勝手にシネマ】

シン・レッド・ライン

監督:テレンス・マリック

出演:ショーン・ペン、ジム・カヴィーゼル、ベン・チャップリン

20th Feb. 2000

 “シン・レッド・ライン”直訳すると“薄っぺらな赤い線?”私の貧弱な語彙力では、この程度の訳になってしまうこのタイトルの本来の意味は、戦場で闘う兵士たちの“生と死の境界線”のことです。テレンス・マリック監督20年ぶりのこの作品は、太平洋戦争の激戦地ガダルカナル島を舞台に、最前線に立つ兵士たちの思いを鋭く見つめた重厚な戦争ドラマです。戦うことの意味を問い続ける彼らの心の叫びが、痛切に胸に鳴り響いてきます。ジム・カヴィーゼル演じるウィット二等兵のナレーションから始まり、彼が目にしたもの、耳にしたもの、感じたことが彼の視線で描かれています。冒頭は非常に良く撮れていて、1カット1カットが丁寧に作られています。
 実はこの作品には主人公が存在しません。戦場で闘う全ての兵士が主人公と言えなくもないのですが、これが最大のネックポイントになっています。とにかく分かりづらいのです。まず最初は、ウィット二等兵の話から始まり、次の場面では、ニック・ノルティ演じるドール中佐が、いかにして自分の栄誉を獲得するか頭を悩ませている場面へと変わります。そして次の場面では、上官からの命令と部下を死なせたくない気持ちに葛藤するショーン・ペン演じるウェルシュ曹長の場面へと変わります。さらに、幸せな新婚生活がスタートした直後に徴兵されたベル二等兵(ベン・チャップリン)の話がところどころ挿入された後にまた、ウェルシュ曹長の話に戻ります。雑誌やパンフレットなどではショーン・ペンの名前が先頭に載っているので、ウェルシュ曹長が主人公のようにも思えますが、そういうわけでもなさそうです。おそらく出演時間の長い順なのでしょう。それぞれの兵士が、それぞれの思いを抱いて闘いながら生死の境をさまよう姿をいくつもの場面を重ねて描いているのはいいのですが、それが、どれもつながりを持たずに、ばらばらに進んでいくのです。見ている側としては、話についていくのがやっとでした。ほぼ同時期に公開された『プライベート・ライアン』と共に評価されていましたが(あれも納得いかない作品でしたが…)まだあちらのほうがストーリーが明確な分、良かったと思います。まあ、あちらはトム・ハンクスが良かったから、その違いもあるのでしょう。
 この作品を見て一番印象に残ったことは、ガダルカナル島の美しさでした。血生臭さのまったく感じられない戦争映画で、まるで島の観光ビデオのようなこの作品は、結局最後まで制作側の意図が伝わらないまま終わってしまいました。他の戦争映画で、リアルな戦闘シーンを見たいなら『プライベート・ライアン』を、感動を求めるなら『ディア・ハンター』か『フルメタルジャケット』をお勧めします。★★