【柿沼弘子の勝手にシネマ】

ラン・ローラ・ラン

監督:トム・ティクバー
出演:フランカ・ポテンテ、モーリッツ・ブライプトロイ


26th Nov. 1999


 この作品は、ホイッスルとともに警官がサッカーボールを空高く蹴り上げるシーンからすべてが始まる。午前

11時40分、主人公ローラ(フランカ・ポテンテ)の家の電話が突然、けたたましく鳴り響く。相手は恋人のマニ 

(モーリッツ・ブライプトロイ)。ギャングの金の運び屋のマニは不注意にもその金を電車の中に置き忘れてし

まう。金額は10万マルク。日本円に換算するといくらになるのだろう、いずれにしても大変な金額である。その

金を12時までに届けることができなければ、マニの命が危ない。残る時間はあと20分。愛するマニを救うため

、ローラは銀行頭取の父親のところへ助けを求めて走り出す。主人公のローラは真っ赤に染めた髪に青いタン

クトップ。それほど美人ではないけれど、鍛え上げられた足腰はたくましい。タンクトップからはみ出たブラジャー

の肩ひもも気にせずひたすら走り続ける。(ひもどころか脇からカップまではみ出る走りっぷりはえらい)本国ドイ

ツでは同年代の少女から圧倒的共感を集めて偶像視されている彼女を真似て、髪を赤く染める女の子が続出

したらしい。それにしても、とにかくすごいのがローラの走りっぷりだ。1時間21分の上映時間のうち1時間位が

走っているシーンだ(しかも全力疾走)。それにもかかわらずこの作品が面白いのは、映像の面白さと、ストーリ

ーの持つ真の意味にあるのだろう。この作品は今までには無い斬新なアイディアが多く盛り込まれている。アニメ

ーションの挿入、フォト・コラージュ、フィルムの巻き戻し、画面分割、さまざまなカメラアングルによる面白い映像

など数え上げたらきりがない。これらの手法と真っ赤な髪の女の子とのビジュアル的な融合は刺激的だった。  

 この作品は、ローラが電話を受け、部屋を出てから街で待っているマニにたどり着くまでの20分間の物語が3

度繰り返される。そしてローラとすれ違うさまざまな人の未来の姿が数コマの写真でフラッシュバックされるのだが

、(未来のこともフラッシュバックというのだろうか)それはほんの少しのタイミングのずれでまったく違った人生に

変わっていく。そしてローラ自身もまた、わずかなタイミングのずれによって3つの異なる結末をむかえることにな

る。つまりこの作品で一番伝えたいのは、「人生はちょっとしたきっかけでどうにでも変わるのだ」ということ。つま

り、人生の可能性は無限大に広がっていくものなんだ、ということを伝えたかったのではないだろうか。冒頭のナ

レーションの中で、「問題は一つだけではない」という言葉があった。問題から問題が生まれそれは永遠に広が

っていく。人生もまた同じようなもので、複雑で未知で神秘的なものであり、無限の可能性を抱えているのだ。そ

れにしても、最近「走る映像」がやたら目に付く。イラン映画の「運動靴と赤い金魚」でも少年が走っていたし、「ウ

ィダーインゼリー」のCMでは本上まなみがお腹を出しながら走っていた。女の子が走りながらすれ違いざまラリ

アットするCMなどはまさにこの作品の影響を受けているような気がする。                       

 ただ走るだけではなく、そこに深い意味を持たせ、面白い映像でまとめたドイツの新鋭監督トム・ティクバーに

はほんと感心させられた。★★★★★                                            

       

 
【※】ちなみに★は5点満点だよ。