【柿沼弘子の勝手にシネマ】

運動靴と赤い金魚

監督:マジッド・マジディ
出演:ミル=ファロク・ハシェミアン、バハレ・セッデキ


1st Nov. 1999


 この作品は子供心の描写に定評のあるイラン映画界から届いた可憐で心温まる児童映画です。妹の運動靴をなく

してしまった貧しい少年が、新しい靴を手に入れるために奮闘するというストーリーで、子供心を丹念に見つめるタッ

チと、大らかに包み込む詩情が絶品の作品です。なかなか評判の良い作品だったので、公開最終日の最終回にも

かかわらず座席はほぼ満席でした。                                                

 この作品は、今の日本だったら夢の島でさえ探すことのできないようなボロ靴を、修理屋が丁寧に紐で縫い合わせ

る場面から始まります。確かにイランという国は決して豊かではないというイメージはありますが、冒頭からいきなりカ

ルチャーショックを感じました。そしてアリ(主人公の男の子)はその修理が終わったばかりの妹の靴を受け取って帰

るのですが、愚かにも買い物の途中でその大事な靴をなくしてしまいます。貧しいアリの家では新しい靴を買ってもら

う余裕なんてもちろんありません。途方にくれたアリはなんとか妹を説得して、自分の靴を二人で交互に履くことにし

ます。そんなある日、マラソン大会が行われることとなり、なんと3位の賞品が運動靴なのです。アリはマラソン大会

で賞品の運動靴を狙って走ることになります。でも、間抜けなアリは頑張り過ぎて、1位になってしまうのです。結局賞

品の運動靴は別の子の手に渡ってしまうのですが、ラストシーンではアリのお父さんがアルバイトで稼いだ僅かなお

金で妹にかわいい靴を買ってくれます。最後はとてもすがすがしい気分になりました。                  

 それにしても、イランの子供たちにはほっとさせられました。今の日本の子供たちと違い、目上の人を敬う気持ちを

持っていて、怒られると素直に謝ります。言われた事には素直に従い、決して反抗しません。そして、か弱い妹をいた

わる気持ちも持っています。学校に遅刻してしまい、泣きながら謝る場面や、一つの運動靴を兄と妹で交代で履く場面

などを見ると、物の豊かさと心の豊かさは確かに反比例している様に感じられます。映画のなかのイランは戦後の貧し

い日本と同じように、人々は貧しいけれども他人を思いやる温かい心を持っています。私たちの心の奥で忘れ去られ

てしまった大事な何かを思い出させてくれる作品でした。ほっとした反面、我が国の将来が急に不安になりました。★

★★★★です。                                                            

 
【※】ちなみに★は5点満点だよ。