【柿沼弘子の勝手にシネマ】

コリン・マッケンジー もうひとりのグリフィス

監督・脚本:ピーター・ジャクソン、コスタ・ボーテス
出演:サム・ニール、ハーヴェイ・ワインスタイン


15th Oct. 1999


 この作品、はっきり言ってかなり「玄人好み」です。グリフィスとはD.W.グリフィスのことで、今世紀初

頭、アメリカで活躍した映画監督で、映画史を紐解くとこの人の名前が必ず出てきます。モンタージュ

技法など、当時としては画期的な撮影技法や演出技法を確立しました。この作品は、グリフィス以前

にコリン・マッケンジーという映画の先人がニュージーランドにいたという、世紀の大発見をドキュメン

タリータッチで描いています。冒頭、梨元ばりのリポーターがマッケンジーの実家の前に現れ、そこの

納屋から大量のフィルムが発見されたと説明を始めます。それまでニュージーランドでは、そのような

先駆的な映画人はいないと思われていたので、これはニュージーランド映画史を揺るがす大発見とな

るのです。さらに、彼が自作した初期フィルムやカメラ、映写機までもが発見されます。そして、その貴

重なフィルムと共に彼の数奇な運命が解き明かされていくのです。これはまさに世紀の大発見を描い

たドキュメンタリーと言いたいところですが、この作品、実は全部作り話です。「映画史」のパロディな

のです。この作品のすごいところは、最初から最後まで作り話とは一言も言わずに、大まじめに嘘の

歴史を作り上げていくところです。そして、さらにすごいのは、『ピアノ・レッスン』で主人公の夫役を演

じたサム・ニールや、ミラマックスの社長のハーヴェイ・ワインスタインなど、数多くの映画関連の著名

人を使って、くだらない事を大まじめにコメントさせているところです。そして、発見されたフィルムを上

映しながら、いかにマッケンジーが映画界の先駆者であったかを説明していくのですが、それがいか

にも安っぽくて、すぐに作り話だとわかってしまいます。そして、これが(玄人にとって)笑い所の一つに

なっています。例えば卵の成分からフィルムの発色技術を発見したり、カメラを回す動力に蒸気機関

車を利用したり、いかにも嘘っぽい話が続きます。さらに、ニュージーランドの奥地の密林の中に彼が

構想していた超大作『サロメ』のセットを発見したり。もう、やりたい放題です。ニュージーランドの映画

人たちが、映画誕生100年の記念に作り上げたこの作品も、細部にこだわり過ぎたため、かえって素

人には分かりにくく、面白味に欠ける作品になってしまいました。題材の目の付け所が良かっただけ

に残念でした。まあ、こういう映画もあるんだな、といったところでしょうか。★★です。          

                                                            

 
【※】ちなみに★は5点満点だよ。