「ポケモンが作られた話」

「ポケモン、いますか」
「それがねえ」訊かれた獣医は答えた。「いませんのよ。どこにも」
「いない」彼は震えた声で言った「どうして」
「私にもわからんのですよ」獣医はまるで薄笑いしているようだった。「ただひとつ、わかることといえば、そうですね、あの夜いましたね、変なのが」
「変なの?」
「ええ、突然ね」老いた老婆である彼女は、まるで見てきたかのように話しだした。「物凄い轟音が響きましてね。それと同時に、でっかいモノがやってきてね、全部さらっていったんですよ」
「さらっていった? なら僕が助け出します」
「無駄ですよ」彼女は笑った。「死んだのですから」
「どうしてそんなことがわかるんです」
「死んだのは死んだんだもの。そもそもポケモンって生きてるんでしょうかねえ。あの作られた命が。あれはもともと死んでいたのですよ。最初からなかったのですよ」
「言ってることがよくわかりません」
「あなたにはわからんでしょうよ、でもねえ、私にはわかるんです。あれは作られた命だったのです」
「誰に?」
「言いませんよそんなこと」
 老婆はおそらく呆けているのだろうと彼は思った。
「あれは作られたんです。人を殺すために作られたんですよ」

 1

 以下は発見された問題の文章である。残念ながらこれが書かれた時期はわかっていない。また内容の信憑性も不明である。

 ……我々はそれを作った。念願の第一号を我々は「ヒトカゲ」と名づけた。しっぽに火がついたトカゲであったので。鳴き声をどうするかという点で迷ったが、自然に生まれた動物のように繊細で複雑な鳴き声など作れるはずもないので、ただ単に「カゲ」と鳴かせることにした。
(中略)
 これで三匹が揃った。すなわち、ヒトカゲ、フシギダネ、ゼニガメである。我々はこの三匹を基本的なポケモンにすることにした。そして、ここから基本的な遺伝子を組み換え、様々なポケモンを生み出していった。
 何匹作ったか、詳細は言わない。何故なら今もポケモンは作られ続けているからだ。そしてそれは永遠に続くだろう。

(中略)
 ……これらは敵を殺すために作られた生物である。彼らは優れた戦闘能力を持ち、敵を制圧する。彼らは大量の人間の変わりに役立つ。爆弾テロや偵察。これらの作られた命を利用することによって、人間の戦争による死亡人数を減らすことができる。
 全ての宗教は役目を終えるだろう。何故なら私達は命を作った。神がやってのけた仕事に到達したのだ。
 これで奴らも殺すことができる……やっと長年の夢が実現するのだ。素晴らしい。
(注・ここでいう「奴ら」が誰のことを指すのかはわかっていない)

 2

(ある老婆のインタビューに対する回答)

 ……ええ、ええ。そうです。あれは最初から作られた存在だったのです。私にはわかるのです。何故なら私のお祖父さん、曾お祖父さんから代々言われてきたことなのです。私の先祖はそれを見ました。それが日記に記されています。
 ……内容に信憑性が無いと? どうとでも言ってください、あなたがたは何を見ても信じないのでしょう? 私から言わせてもらえば、あなたがたが、ポケモンは古代から人間と共に存在していた、と言っていることも信憑性がありません。現実はもっと厳しいのです。神も作られたようにポケモンも作られたのです。
 実際、今は本当の動物がどんどん少なくなって、ポケモンが増えています。これも奴らの仕業なのでしょう。

(差し出された日記の断片)

 ……ここに書かれたものは神に誓って言うが、真実である。この日記の著者の正気を疑うのであれば、世界中で書かれた日記そのものを疑わなければならない。著者は至って正常である。

 その光景を見たときは背筋が凍った。散歩していたときに怪しい二人組を見たので、そいつ等を追っていくと、とある場所にある工場に着いた。
 中を覗くと何かが創造されていた。……実に簡潔な文章だと思うだろう? だが実際そうだったのだ。ただ単に彼らは創られていたのだ。あらゆる材料を使って錬金術のようなもので合成していた。
 そのグロテスクな光景は生涯忘れられない。血みどろの肉片が、みるみるうちに可愛らしい生物に変わっていったとき、私は眼を疑った。
 その工場内にいた数人の人間のうちの一人が言った。
「これで何体目だろうな」
「知るか、そんなの」と別の人間が言った。「ただ、これだけは確かだ。俺たちは時代を作った」
「この肉片で出来たポケモンで?」誰かが笑った。そこではじめて私は「ポケモン」という言葉を知った。
「ポケモンがこうやって創られているなんて、誰も思いもしないだろうな」
「いいんだよ、これで。こいつらを古代から存在させるように思わせるんだ。メディアを操作して、最近発見されたように振舞え。こいつらは昔からいる新種の動物なんだ。今までの動物なんかいらん」
 私はこれ以上は書きたくない。ただその場を離れたくなって、何かに追われるように急いで家に帰ってきたということだけ言っておこう。



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