和物原理主義者への道

 昨年あたりから小生の嗜好に変化が生じてきた。
 
もともと無類のコーヒー好きだった小生が、コーヒーを飲まなくなったのだ。

別に我慢している訳ではない、コーヒーを欲しないから飲まないだけだ。

どうしてコーヒーを欲しなくなったのかは、全然分からない。

飲みたくないから飲まないでいて、気がつくともう何日も経っていた、という具合だ。

30代には多い日で一日に10杯ものコーヒーを飲んでいた小生なのに、コーヒーを必要としない身体になってしまった。



 我が家のコーヒーはオリジナル・ブレンドである。

大学時代の同級生がたまたまコーヒー豆の卸を商っていたので、小生の好みに合わせてブレンドしてもらっている。

このウッチー・オリジナルブレンドの内容はキリマンジャロ50%、ブルーマウンテン30%、コロンビア20%とまろやかだが、酸味の強い組み合わせにしてある。

勿論ウッチーブレンドは人気で、社務所を喫茶「萩ヶ岡」と勘違い?している人達にも評判がいいコーヒーなのである。

25年も飲み続けたこの拘りのコーヒーなのに、何故か要らなくなってしまった。

毎朝の食事後にコーヒーを頂くのは女房一人となり、小生は日本茶をすするほうがしっくり口に合うようになってきた。

還暦まであと三年半余り、そういう年代に入って来たのだろうか。



 振り返ってみると、小生が初めてコーヒーを口にしたのは中学生の時であった。

インスタントコーヒーに砂糖を入れて飲んだが、何とまずい飲み物かと思った記憶が残っている。

高校3年生になってだんだん色気づいて来て、時々喫茶店なるものへ通うようになった。

少しでも大人の世界を垣間見たいという思いで、ちっともおいしいと思わないコーヒーを注文したものだ。

しかも、友人が「通はコーヒーとは言わずブレンドと言うんだ」と言ったのを聞いてからは、大して意味も分かっていないのに「ブレンド、お願いします」などと注文した。

いい振りこいて「通」を気取る割には砂糖とミルクをどっぷり入れなければ飲めず、その味はまるで温めたコーヒー牛乳そのものだった。

所詮「ガキの背伸び」だったけれど、懐かしい青春の1ペ−ジなのである。

それでもだんだんとコーヒーの味が分かって来たのか、大学生になる頃には「ブラック」しか飲まなくなった。

インスタントではないコーヒーの酸味をうまいと感じるようになり、この頃から「モカ・マタリ」のストレートを注文するようになった。

最も気に入った酸味がキリマンジャロで、これのストレートも随分飲んだが「ブレンドした方がよりおいしくなるよ」とアドバイスされ、ウッチーブレンドへと辿り着いたのだ。

毎日決まってコーヒーを口にしていた頃には、こんな事を振り返りもしなかったけれど、今こうしてコーヒーを好まなくなって初めて自分自身のコーヒー史に思いを寄せる。



 そう言えば、四十歳になった時にも嗜好の変化があった。

それまで大好きだったラーメンを好まなくなり、蕎麦がおいしくなった。

今ではわざわざラーメンを食べに行くことは殆どないが、おいしい蕎麦なら千円払ってでも食べに行く。

年相応に嗜好も変わる、ということか。

ラーメンから蕎麦へ、コーヒーから日本茶へ、加齢と共に「和物原理主義者」へと変貌しつつある小生なのである。



 そしてこの先、どの様な変化が訪れるのだろうか。

ひとつ期待?出来そうなのは和服への変貌である。

祖父がそうであったように、一年中着物を着るのだ。

洋服を着るのはフライフィッシングに興じる時くらいで、普段は着物を着て過ごすのだ。

これ位やらなければ、とても「和物原理主義者」とは言えないだろう。

ま、仕事着が和装?なので、それほど抵抗はないと考えている。

戻る