十歳の君へ

 元旦にお参りに来た君へ。
諸願成就の絵馬に「お母さんのガンが治りますように」と書き込んだ
十歳の君へ。

多分小学校の4年か5年生であろう君が、毎日どれ程の不安の中で
生きているのか、どれ程の緊張に包まれて生活しているのか、
私にはよく分かります。

私にも同じ様な経験が二度あるからです。
今の君は「お母さん、いったい、どうなるのだろうか?」
「なぜ、うちのお母さんがガンになんかなるのだろうか?」
「お願いだから、お母さんの病気を治して」と言う気持ちでいっぱい
でしょう。

私も同じでした。



 もう45年も以前の事ですが、私が小学校に入学する年の早春に
母が入院しました。
母は肺結核と言う病気にかかって、札幌の療養所に入院しました。

ですから、小学校の入学式に母は出席出来ず、私は親戚の叔母
さんに連れられて入学式に行きました。

他の一年生達が皆、それぞれ自分の母親と手をつないで歩いて
いる姿に嫉妬心のような、少し淋しいような、悔しいような気持ち
になった事を憶えています。

母の入院は確か一年近くも続いたのですが、その間にお見舞いに
行けたのは夏休みに一度だけでした。

子供心に、母の身体の心配ばかりをしていたのを思い出します。


二度目は私が28歳の時です。
母がガンにかかりました。

この当時、私は東京に住んでいました。
それまで勤めていた会社を辞めて、神主の資格を取るために
学校に入る時でした。

母の病状がとても心配でしたが、かと言って私に出来る事もなく
「今、自分がやるべき事をやろう」と気持ちを切り替えて、一生
懸命に勉強しました。

それが闘病生活を送る母を励ます最善の方法と考えたからです。



 十歳の君にとって、自分のお小遣いの中から500円の絵馬を
買い求めるのは簡単な事ではないでしょう。

君の行為は、君のお母さんに対する気持ちがとてもよく伝わって
来ます。

きっと、学校で勉強していても、友達と遊んでいても、お母さんの
病気が頭からはなれる事はないでしょう。

でも、頑張るんだぞ!!
毎日毎日お母さんの事が気になって、不安で、辛いだろうけれど
でも、頑張るんだぞ!!

歯喰いしばって頑張るんだぞ!!
君のお母さんも病魔と闘って頑張っている。



 私には、君の願いが叶えられるかどうか分からないけれど、そして
それがとても悔しいけれど、しかし、約束します。

私は私の全身全霊をかけて祈る事を。
君のお母さんの病気が治って、君に心の底からの笑顔が戻る様に
と毎日念じ、祈り続ける事を。

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