■ ガキ大将の理想像


 もう二十数年程以前にラジオの深夜放送だったか、何かの本で読んだのかは定かではないが、未だに忘れられない話がある。

確か「初恋」という題の女性からの投稿文で、実話である。

場面は冬の北海道のとある小学校の教室。
当時彼女は四年生。

後僅かで授業終了のベルが鳴るという時、彼女はオシッコがしたくなった。
必死にこらえた。

後ろの席にはガキ大将が座っている。
こんな奴の前でお漏らしなどしようものなら何を言われるか分からない、笑い者になる。


「もう少しだ、絶対我慢するんだ」、自分に言い聞かせて頑張ったがベルが鳴る直前、漏らしてしまった。

「あーもう駄目だ」と思った瞬間、彼女の身体はビショ濡れだった。

びっくりして横を向くと、ガキ大将がダルマストーブの防火用の水バケツを持って立っていた。


担任の先生がいくら問いただしても、ガキ大将は何も答えない。

報告を受けた彼女の両親は彼女も連れて、ガキ大将の家へ行った。

ガキ大将の親も怒って、ガキ大将を殴った。

それでも彼は何も言わない。

そんな彼の姿を見て、耐え切れなくなった彼女は自分がお漏らしした事を告白した。

その後自分は転校したが、彼はどうしているだろうか。

あの事件以来、自分は彼に淡い恋心を抱いたのではないだろうか、といった内容である。

いきなり水バケツをかけるというのは、いささか乱暴なやり口だが、あの場面で彼女のお漏らしを、人に気づかせない方法は他にない。

彼もまた彼女に想いを寄せていたのだろうか。

長男が産まれた時、このガキ大将の様な男児に育ってほしいと望んだものだ。

ガキ大将も彼女も私と同年代だ。きっと二人とも幸福な人生を送っていると確信する。


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