「算数博士」苦手な国語を克服して筑波大付属中
相談内容
私立小学校に通う6年生の男子。算数は得意中の得意で、学校では「算数博士」と言われている。しかし国語が苦手で勉強の仕方もよくわからない。本もあまり読むほうではない。生まれたときは未熟児で、現在も体は丈夫ではない。志望校は男子の最高ランクを目標にしているので、なんとか国語を克服して希望をかなえたい。指導は国語を中心にお願いしたい。
第一志望 開成中学
状況把握と指導方針 指導開始 6年生4月
指導を開始した時点では国語も決して悪い手応えではなかった。しかし、当初の緊張感が薄れてくるにつれ、指導中に眠気を催すようになる。まぶたが閉じてきてコックリコックリと船をこぎ始め、まったく授業にならない。
ところが算数に切り替えると、とたんに満面笑みをたたえ、手の舞い足の踏む所を知らずといった様子。まるで別人のように生き生きとしてきて、わき目も振らず、のめりこむようにてきぱきと難問をこなしていく。好きこそものの上手なれとはよく言ったものだ。
このような事情で、授業はどうしても算数中心にならざるを得なくなってしまったが、さりとて国語の指導を放棄するわけもいかない。こんな状態のまま数ヶ月が経過したが、その間興味深い事実に気づいた。無理にでも国語の指導を強行すると、とたんに国語の成績が上がる。しかし、すぐ例のコックリ病が再発して授業が成立しなくなり、成績も元に戻ってしまう。しばらく冷却期間をおいてから国語を再開すると、また同様の経過となる。この繰り返しである。
対策
国語に関しては継続的な指導が困難なので、無理強いしても時間のロスになるだけだ。そこで、上記のサイクルにあえてさからわず、逆にうまく乗るような方策をとったほうが賢明だと考えた。
決定的に重要なのは入試直前の集中指導だ。短期間のうちに読解のノウハウを伝授してしまい、その集中のクライマックスで受験本番を迎えるようにする。まさに絶妙のタイミングが要求されるわけだ。
経過
快調な算数と中途半端な国語のちぐはぐな指導状況のまま夏休みを迎える。虚弱体質の子にとって夏休みがよい休養になったらしく、休み明けの塾内模試ではトップの成績をあげる。国語も満足のいく水準であった。
ところが秋の運動会が終わったころ、蓄積した疲労が一気に出てきたらしく、授業中にコックリどころか、椅子から崩れ落ちるように床に倒れこみ、そのまま寝入ってしまう。当然成績も急降下。母親も当方の指導に不信感を持ち始め、とうとう自分自身で国語を教え始める始末。
算数オリンピックにも出場したが、予選通過はならなかった。
教師にとってこのような状況はたいへんつらいものだが、先に立てた方針を堅持し、信念を持って耐え抜くしかなかった。冬場になると体調も元に戻り、成績も回復し始めた。そして一月に入り、満を持して国語の集中指導を開始した。
結果
開成中学 不合格 筑波大付属駒場中 合格
出遅れをなんとか克服して法政二中
相談内容
受験準備を始めたのが5年3学期の終わり頃。準大手の塾に通っているが、基礎が固まっていないせいか、授業についていけない。当然、塾内の模試でも結果はかんばしくない。しかしながら第一志望は早実。スタートで非常に出遅れているので、困難なことはよく承知しているが、本人も強く希望しているので、できるだけのことはしてみたい。結果にはこだわらない。性格はまじめで言われたことはきちんと実行する。算数と国語に加えて理科の指導もお願いしたい。
第一志望 早稲田実業
状況把握と指導方針 指導開始 6年生8月
塾では「予習シリーズ」を用いている。生徒はシリーズ@がほとんど未習のままBの学習に入っている。ついていけないのは当然である。そこで、算数をさかのぼって@から教えてみると、よく理解し、驚いたことに宿題の基本問題や練習問題をほぼ自力できちんとこなしていく。素質は十分と見た。
依頼では週1回・2時間で算数・国語・理科の三科目だが、未習部分がかなりあるので、これは時間的に無理。そこで算・国の二科目にしぼることで了解を得た。
当面は塾のカリキュラムには準拠せず、なによりもシリーズの未習部分を速やかに習得することにした。
大幅に出遅れている上に、あと6ヶ月しかない。しかし、受験においてなによりも大切なのは初志貫徹であり、第一志望・早実はいかなることがあっても変更せず、最後まで粘り抜くことを生徒・親・教師の三者で繰り返し確認する。
対策
算数は1回2週分のペースで、@→A→Bの順に学習を進める。授業では例題を中心に解説し、基本問題と練習問題は大部分を宿題とする。わからない問題は次回の授業で解説する。この方式は長年実践しているので、平均以上の能力のある生徒なら遅滞なく進行していく。
国語は手応えがよいのでAからスタートすることにした。ただし、算数を上記のペースで進めるので、時間的には圧迫された。
経過
算数は順調に進み、Bを終了するころには塾の授業もよく理解できるようになってきた。しかし、まだ実戦で勝負になるような水準ではない。再度@から反復を開始する。
ところで、算数に時間をとられて国語が思うように進まないにもかかわらず、2学期になってから突然理科の指導も懇願される。事情も十分理解できるので、ここでやむなく国語を中止する。学力を診断して見ると、これも基礎がほとんどできていない。そこで算数同様にシリーズ@からスタートすることにした。差し迫った時期であったため、十分な反復は実行し難い状況であったが、それでも第一志望・早実は動かさないことを何度も確認し合う。
早稲田実業中 不合格 法政二中 合格
典型的な理科系タイプ 国・社を克服して筑波大付属中
相談内容
サピックスに通う6年女子。国語が弱い。また社会は授業そのものがよくわからない。理科は得意中の得意で算数も問題はない。国・社の二科目を克服できればかなり上位を狙えるので何とかしてほしい。塾の宿題がこなしきれないほど大量に出るので、家庭教師は授業のみにしてほしい。
第一志望 筑波大付属中
状況把握と指導方針 指導開始 6年生7月
典型的な理系タイプ。しかし、実際に国語を教えてみると、決して素質がないわけではない。算数や理科に関心が傾きすぎて、国語に対して根拠のない苦手意識を持っているにすぎないようだ。きちんと読解の手順を教えていけば十分克服できると見た。
社会も四谷の「予習シリーズ」を持っていたので、これを用いてみると、こちらの説明にいちいちうなずきながら興味を示してくる。非常に反応がよいのだ。これならまったく問題ない。単に塾の教え方と合わなかっただけかもしれない。
対策
国語は塾のカリキュラムに準拠することにした。テキストを丁寧に解説し、様々な読解のテクニックを逐一伝授していく。いきあたりばったりの解法では安定した成績は期待できない。きちんと手順を踏んで解答していく練習を毎週繰り返す。
社会は地理の分野から総復習する必要があるので、「予習シリーズ」を@から順次解説していくことにした。
経過
指導を開始してから二ヶ月くらいでかなり成績が上昇してきた。ただし、理科と算数で得点しており、肝心の国語と社会はまだ伸びが鈍い。二学期に入り、四谷の合・不合判定模試を順次受けていく過程で、成績の大きなブレを経験する。ほぼ第一志望にとどいたと思って喜んだのもつかのま、得意科目の算数と理科で失点し急降下する。
この時は本人も母親もパニックになった。成績表がしわくちゃになっている。よくあることですね。母親のヒステリーです。まるめて放り投げたんでしょう。その後ある程度回復したが、まだ満足の行く水準ではない。
それでも指導のほうは順調で、国語は大きなとりこぼしがなくなり、社会も「よくわかる」という実感が芽生えてきた。
結局、第一志望については、安心できる水準で合・不合をしめくくることはできなかった。しかし、不得意科目がなくなったせいか、以前に比べて格段に自信と集中力が増してきたことは確認できた。
筑波大付属中 合格
母親が極度の心配症 疲労困憊しながら第一志望合格
相談内容
自宅学習している小6男子。以前四谷大塚に通っていたが退塾し、その後いろいろな方法を試みたがうまくいかない。これでよいという方法が見つからないので、現在は家族総がかりで受験準備をしているが、むろん確信が持てるわけでもない。ベテラン教師のアドバイスに従うのがよいのではと思うので、なんとかうまくリードしてほしい。二科目受験で、決してハイレベルなところは狙わない。
第一志望 高輪中
状況把握と指導方針 指導開始 6年生6月
困った依頼を受けてしまったというのが率直な気持ちだった。母親が極端な心配性で、何をやっても自信が持てず、すぐにこれでよいのだろうかと懐疑的になってしまう。思うように事態が進展せぬまま入試本番が迫ってくるのでほとんどパニックに陥りつつあるという状況。
ただし、生徒本人は非常に温和で、過敏な母親とは対極の性格。
対策
どのようなケースでもプロ教師の対応は一つである。一貫性のある方針と、それを徹底して貫く信念である。まず生徒の学力を正確に診断する。そしてそれに合致したテキストを選定し、しっかり理解させるとともに、徹底反復して得点力を高めていく。
算・国ともに、以前学習していた「予習シリーズ」を用いることとし、母親が迷うといけないので、他のテキスト類はすべて片付けさせた。
経過
指導開始早々、ファックスによる質問攻めにあう。半端な数ではない。内容はどれも似たり寄ったりで、要するに「不安でどうしてよいかわからない」ということだ。いったいどこからこんな質問の種を見つけてくるのかと驚嘆するとともに、来信のファックス用紙が厚い束になっていくにつれ、当方の憂鬱度も限界に近づいていく。回答するだけでもかなり時間を食われるのだ。
しかし、生徒のほうはこつこつと指示通りに課題をこなしていく。決して鋭くはないが、堅実である。開始当初は問題を解くスピードの遅さに少々イライラすることもあったが、これを長時間考えつづけることができる持久力と解釈すれば、評価は逆転するわけだ。
案の定、こんな状況に母親はおろおろするばかりだったが、教師・生徒ともに一致結束どこ吹く風とただひたすら「シリーズ」の反復に専心した。効果は次第に表れ、解答のスピードも速くなり、第一志望に関してはほぼ絶対といってよい水準で受験本番を迎えることができた。
母親との底なし沼のような質疑応答に疲労困憊しながら、たんたんと方針通り進めていったのだが、受験直前では母親もなにかふっきれたようで、かなり精神状態が安定してきたのは救いであった。
今でも思い出すと呆然としてしまうが、夢の中まで追いかけてこないのが救いではある。
高輪中 合格
4年生から「シリーズ」の徹底反復 文句なしの結果
母親からの相談内容
4年生の男子。塾には行かず、週2回の家庭教師のみで受験したい。方針はすべて
おまかせする。
第一志望 指導開始の時点では特になし。
状況把握と指導方針 指導開始 4年生4月
4年生なので、受験に関しては白紙の状態。悪い学び癖が全くついておらず、スタートとしては理想的。最も効果的な指導方法を障害なく実施できる。学校での成績は上位で、性格も非常に素直であり、教師の指示は遵守する。
対策
テキストは「予習シリーズ」。宿題を指示通り完璧に実行するので、1週間に2週分のハイペースで進めることにした。1回2時間の指導で4科目・1週分を解説する。受験まで十分な期間があるので、可能な限り反復練習を実施する。
経過
「予習シリーズ」のジュニアから開始する。模試は受けないので、「前年度問題集」を自宅で実施することにした。得点は毎回8割程度。もう少しできるのではと期待したが、算数もなかなか満点はとれない。ペースが速いので夏休みまでに上・下2冊を終了し、ただちに2回目を開始する。
いきなり超ハイペースの学習が始まったせいか、ふっくらとしていた頬がこけてきた。しかし、体調を崩すほどではないので、心を鬼にして叱咤する。
ジュニア全体を2回反復学習した後で、「予習シリーズ」@ABをジュニア同様に週2回分のペースで進める。
この間、5年生のときに算数オリンピックに出場。見事に予選を通過する。決勝ではいまいちだったが、急激な飛躍に、通学する小学校でも話題騒然となる。
Bを終了後に、@に立ち戻って反復を開始する。2回目の学習ではあるが、かなりケアレスミスが目立つ。
「前年度問題集」を反復2回目終了後に実施してみたが、とても満足の行く出来ではない。しかし、6年で学ぶ内容を先取りしているので気にする必要はない。
反復3回目になっても基本問題でケアレスミスする場合が目立つが、どうしても解けない問題は確実に減少しており、次第に目標水準に近づきつつあるのを実感する。使用テキストは「予習シリーズ」以外に高度なものを若干加える。
6年より、YTに参加する。常にCコースの100番以内をキープしており、第一志望も開成中に定める。
「予習シリーズ」は、算数の「アルファ」「エリート」を含めて、ほぼ完全マスターの状態で入試本番に臨む。
開成中 合格 筑波大付属駒場中 合格
YT不合格から体勢を立て直して急上昇、しかし…
母親からの相談内容
都内の某塾に通う6年男子。授業はスパルタ式で有名だがついていけない。だいぶ積み残しがあって焦っている。塾内の模試も全く振るわない。現在方針に迷っているところなので、的確なアドバイスをお願いしたい。受験は2科目。本は好きでよく読む。
第一志望 本郷中
状況把握と指導方針 指導開始6年生4月
基礎がまるでできていないところへハイレベルな問題ばかりやらされたいたので、頭の中が混乱していてこのままではどうにもならない。塾のフォローという形ではうまくいかないだろう。テキストが生徒の実力に合っていない。
本はよく読むどころではない。まるで本の虫である。これなら国語は大丈夫だろう。
対策
まず転塾させることにした。母親が抵抗したが、根気強く説得を重ねてようやく受け入させた。「予習シリーズ」を用いるオーソドックスな塾である。「シリーズ」は@から再学習する。
経過
YTに入会手続きするが、なんと不合格。これには驚いた。ようやく2回目でAコース合格となる。しかし、日曜テストを受け始めて早々に成績優秀者のリストに載る。当初からシリーズの徹底反復と決めており、母親はそれを受けてテキストのコピーを何部も用意し、生徒も指示通りに実行した。その成果がたちどころに現れたわけだ。その後、Aコースではほとんど10番以内をキープする。
「シリーズ」を@から解説すると、「ああ、そうだったのか、やっとわかった。」の連発。以前から理解できずに苦しんでいた部分がひとつひとつ霧が晴れるように解決していった。算数では中途半端な理解ではゼロに等しい。そのつど理解を徹底させておかないと積み重ねがきかない。
順調に成績は伸びて、Bコースに昇級する。ここでも10番以内とはいかないが、悪くない位置をキープする。
ただ、おそらく本人の気質によるものであろうが、当方の指示した範囲を無視して勝手にあちこちと手を出し、わからないところを質問してくる。こうなると計画的通りに進まなくなる。本人にとっては焦りもあるのだろうが、これが少々ブレーキとなったことは否めない。
念願のCコース昇格は果たせなかったが、当初の混乱振りからすればたいした進歩であった。
結果は第一志望の本郷中が不合格。この年からいきなり難易度が上がったことも事実だが、模試の結果から、ほぼ合格間違いなしと安易にかまえてしまったことが原因ではなかろうか。直前の指導法に大いに反省を強いられたケースである。
本郷中 不合格 日大豊山 合格
学習障害を克服する信頼関係 市川中へ奇跡の合格
父親からの相談内容
サピックスに通う6年生の男子。志望校は最低でも芝中。できれば麻布に行かせたい。家業が歯科医院。長男でもあり期待が大きい。指導方法はお任せする。
第一志望 麻布中
状況把握と指導方針 指導開始 6年生4月
模試などの資料をいろいろ拝見したが、芝中どころの話ではない。入れる学校があるのだろうかと心配が先にたってしまう。実際に教えてみると、集中力がなくノートのとり方もいいかげんで、受験以前の問題だ。いわゆるLD(学習障害)なのだろう。場合によっては「個人指導崩壊」になりかねない。
対策
塾に通い続けることは意味がないので、両親と相談の上退塾させることにした。当面家庭教師のみで進める。「予習シリーズ」を@から再学習してみると、算数などはかなり素質があることがわかった。リード次第では可能性が出てくるかもしれない。
経過
まず、「模試の結果は気にしなくてもいい。こつこつと努力することが大切なんだよ。」と説き聞かせる。実際、指導開始直後に受けた模試は惨憺たるものであったが、否定的なことは一切口にせず、「またがんばろうな!」と励ます。これによって生徒がかなり信頼を寄せてくるようになった。
大人が示す言葉と行いとの矛盾が、子供に混乱と不信感を植え付け、やがて社会的な逸脱行為に導く。いわゆる「ぐれる」というやつだ。子供は大人の嘘にきわめて敏感なのである。しかし、この点に無自覚でルーズな大人は多い。特に永田町と霞ヶ関。嘘から信頼関係は生まれない。この真理を常に肝に銘じ、教師側の言動の首尾一貫性は最後まで貫徹する。
授業中は案の定、ときおりドタバタが繰り返される。奇声を発して椅子に腰掛けたまま部屋の中をあちこち移動する。母親は「そんな時はぶん殴ってもいいですよ」と言うが、その必要は無い。生徒は当方を信頼しているし、当方も生徒を信頼している。宿題は指示通り実行され、学習は計画通りに進行していく。
問題は父親だった。直情径行で異常にプライドが高く、自分が鹿児島の某有名高校出身であることをしきりに吹聴する。言動にも不可解な面があって少々もてあました。ここに息子のLDの原因があるのでは、と思うのだが、深く立ち入ることはできない。当方はカウンセラーではないのだから。
模試では時々信じられないような成績をとってくる。YTで最下位が一度あった。このときは大騒動になっておばあちゃんまで登場。それでも両親等の阿鼻叫喚を尻目に、師弟間の信頼関係は全くゆるがない。淡々と進むのみ。
次第に模試の成績も安定し、第一志望は問題外としても、ある程度有名校に可能性が出てきた。最終的に合格校は市川中のみであったが、例の模試最下位などを思い起こすと、それでも奇跡に思えてならない。
市川中 合格
生徒から非常に大切なことを教わりました
母親からの相談内容
準大手進学教室に通う6年生の女子。女子学院を志望しているが、偏差値60に届かない現状では厳しい面がある。算数は問題ないが、特に社会が不得手。残された期間はわずかだができるだけのことはしてみたい。
第一志望 女子学院中
状況把握と指導方針 指導開始6年生9月
確かに第一志望に関しては厳しい面があるが、今までの真剣な努力の結果、基礎は十分にできている。直ちに実戦力養成の段階に入れるので、大きな飛躍の可能性はある。
対策
国語はかなり底力があるようだ。女子学院の過去問など、うまくリードしてやるとスピーディに解答して行き、正答率も高い。
問題は社会だ。地理の解説を始めると眠気を催してくる。問いただして見ると、テキストを読んでも具体的なイメージが全くわいてこないのだそうだ。指導方法にかなり工夫が必要である。
経過
指導開始早々に受験した合不合第2回が急上昇する。まだ60ポイントには届かないものの、大いに励みになる。
問題の社会は、まず歴史分野から開始する。地理で眠り込まれては話にならない。それでも生徒の反応はあまり芳しいものではない。ただ、残り期間も少ないので、試行錯誤に時間を食っている余裕はない。少々苦痛でも強引に引っ張って行くほかない。
そうこうしているうちに合不合の第3回でとうとう60ポイントに乗せた。不思議なことに社会に対するコンプレックスがいつのまにかなくなっている。授業中の反応も悪くない。
ところが、かなり楽観的なムードで迎えた合不合の最終第4回、60ポイントにどれくらい上乗せできるかなどと皮算用したものの、見事に裏目に出て60ポイントを大きく割り込んでしまった。国語は現状維持だが、他の科目が軒並み落ち込んでいる。
教師側の長い経験からすれば、こんなことは単なる調子の波であって、気にするほどのことはないのだが、やはり当人にはショックである。思えばこの場面をどう乗り切るかが最大の山場だったであろう。教師側は、一切特別な対処はせず、今までの方法を信じて淡々と学習を進めた。生徒も特に落ち込む様子もなく、まじめについてくる。
一本芯の通った態度には、必ずそれに見合う結果が伴うものだ。1日、2日と不首尾に終わったものの、3日目の豊島岡でとうとう朗報を得た。
生徒が、今まで貯めた自分のお小遣いを全部はたくから家庭教師をつけて欲しいと親に頼み込んだのが今回の依頼のきっかけだったのだそうだ。ちなみに、合不合第4回・豊島岡の合格可能性は5パーセントであった。
女子学院 不合格 豊島岡女子学園中 合格
付記
生徒を教えるのが教師の仕事だが、実のところ教師は生徒から教わりながら成長していくものなのだ。生徒が「わからない」と言うときは、自分の教え方が悪いのだと受け止め、そこから新たな工夫を編み出して行かねばならない。まさに「良薬は口に苦し」である。新社会人は、上司や顧客など、圧倒的な上位者にもまれながら鍛えられていく。ところが、教師は子供という小さく弱い存在を相手にするために、ややもすれば自己中心的になりがちなのだ。立場上の優位を自分の実力と勘違いするのかも知れない。
今回の仕事では、人生のあるべき態度を教わった。確かに相手は小学6年生だが、今自分がこれほどの覚悟でものごとに取り組めるかどうかと考えたら、少々恥ずかしくなる。その意味では、まことに有意義な機会に恵まれて、こちらのほうこそ感謝しなければならない。
わずか2ヶ月の逆転劇 早稲田中
母親からの相談内容
個別指導塾に通う6年生の男子。成績もよく、受験については楽観していたが、本格的な模試を受けたところ、結果が不本意でショックを受けている。入試本番が直前に迫っているのでベテランの先生に指導していただくほかはないと思う。第一志望は早稲田中だが、筑波大付属駒場も念頭にある。
第一志望 早稲田中
状況把握と指導方針 指導開始 6年生12月
個別指導塾とはいっても教師は学生だったので、受験の必須ポイントが十分押さえれられていない。算数では「比」に関連する分野、理科では生物や天体の分野が仕上がっていない。残された期間はわずか2ヶ月なので、ポイントをしぼらなければ効果はない。
対策
算数は「予習シリーズ」のBを1ヶ月で速習する。志望校のレベルを考えれば、「アルファ」や「エリート」にも着手したいのだが、「比」が仕上がっていない段階ではいたしかたない。
理科は生物と天体にしぼり、これも1ヶ月で仕上げる。社会も依頼されているが、時間的に無理がある。科目の優先順位から考えると、これは自習してもらうほかないだろう。
経過
12月は週1回・2時間で、国語の過去問を1年度分、算数は「シリーズ」Bを4回分速習する。算数の練習問題などはすべて宿題としたが、もともと実力があるせいか、自力で十分にこなして行く。「シリーズ」Bでは、いままで習ったこともない新しい事項がたくさんあり、発見の連続だったようだ。一方、国語は実にシャープで正答率も高く、ほとんど問題なく仕上がっている。
1月は理科にしぼって総まとめを行う。やはり社会までは手が回らない。1回の授業で植物や動物など一分野ずつ仕上げて行くのでかなり密度が濃いが、それをなんとか吸収して行ったのだからたいしたものだ。
12月以降の模試では、やはり国語が得点源になっている。しかし算数の伸びが鈍い。「比」とその関連分野は、少なくとも6年の夏休みまでに仕上げておかないと、その後の戦いが非常に不利になるのだが、ここでもその例にもれず、能力はあるものの、やはり急には仕上がらない。
最終の日能研模試では算数にケアレスミスが目立ったが、それを正解と仮定して得点修正してみると、早稲田中が合格安全圏に入っている。指導の手ごたえからなんとなく合格の予感がしていたが、果たして2月早々に朗報が届いた。もしもたっぷり1年間の指導期間があれば筑駒も…という思いがあるが、しかし、わずか2ヶ月の見事な逆転劇であった。
早稲田中 合格 渋谷学園渋谷中 合格
指導実例集 こうやって合格させた
これは家庭教師の指導例です。ずいぶん長い間教えてきましたが、なんの波乱も無く順調に合格を勝ち得た例など一つもありません。まさに「山あり谷あり、楽あれば苦あり、苦あれば楽あり」です。
ここで、うまくいったこともうまくいかなかったことも包み隠さず、正直に公開したいと思います。
一番大切なことは、指導方針の一貫性と信念です。参考になれば幸いです。