「国語」と「受験国語」
「国語」の指導と「受験国語」の指導とを区別しましょう。学校の授業に準拠した補習指導、言い換えれば一般的な「国語」学習と、受験対策として一点でも多く得点することを目的とする「受験国語」の学習とは根本的に異なります。
「国語」学習は、一般に学校で用いられている教科書や、それに準拠したテキストを用います。そこでは筆者の考えたことや伝えたかったことをいかに解釈するかが大きな課題となります。そしてその解釈にあたっては、生徒の独自性が尊重されます。また、作文では、あらかじめ一定の模範解答などが用意されることはなく、なによりも型にとらわれない独創的な見解が高く評価されます。
一方、受験国語においては、
正解とはすなわち出題者の解釈・見解です
。「国語の問題は、人によっていろいろな考え方や感じ方があるのだから、正解はひとつとは限らないのではないか。」という指摘がありますが、これは誤りです。たとえ悪問愚問であっても、出題者の用意した解答例が絶対的な基準となり、受験者側は異議申し立てできません。
ここで、一般的な「国語」学習における
「生徒」対「筆者」
と、受験国語における
「受験生」対「出題者」
という相異なる図式をしっかりと銘記しておきましょう
したがって、受験国語の指導とは、
いかにして出題者の意図を見抜くか
という点に特化し、これを中心に実行されなくてはなりません。
入試に出題される問題文は、ほとんどの場合、ある作品や論文の一部分を抜粋して作成されます。そして、抜粋する場合には、その切り取られた部分にひとつの明快な主題が盛り込まれていることが条件となります。とりわけ論説文や説明文などは、主題と結論およびその論拠が首尾一貫した構成をなしていなければなりません。そして、その主題を軸として様々な設問が立てられます。
さらに、漢字や文法など知識分野の設問を加え、難易度や配点を調整して問題全体が仕上げられていきます。
このように、受験国語の指導においては、出題者側の事情をよく理解した上で指導法を工夫していくことが大切です。なによりも出題者の立場を尊重し、それを基準とすべきであって、教師自身の独断的な見解や解釈を生徒に押し付けるようなことあってはなりません。
これから「物語・小説」や「論説文」など、ジャンルごとに指導法のモデル・ケースを順次述べていきます。これらはあくまでひとつの指導例に過ぎません。多少なりとも参考になるなら、よく咀嚼した上で、教師各自がさらに工夫を加え、独自の方法論をあみ出していただきたいと思います。
物語・小説
正解への手がかりはほとんど問題文の中にある
ことを十分に納得させます。これが大前提です。
物語・小説では、登場人物の「気持ち」を把握することが最も大きな課題となります。
「気持ち」は目に見えません。その目に見えないものを把握するために、登場人物の動作や様子、あるいは言葉など、形に表れたものに注目します。
問題文は、最低でも2回は通読します。ゆっくり読んでいる暇はありません。速読の練習を勧めましょう。ゆっくり1回読むより、手早く2回読んだほうが内容をよく把握でき、また記憶に残ります。
1 生徒に問題文全体を黙読させます。
(本文通読1回目・主題把握)
漫然と読むのではなく、常に「
主題
は何だろう」と意識させながら読ませます。
登場人物の名前にもらさずマル印
をつけさせます。こうすると、ある登場人物について問われたときに、手がかりが探しやすくなります。
2 設問全体に目を通し、どのような内容が問われているかを把握させます。
(設問通覧・主題把握・課題把握)
設問全体をじっくり観察すると、そこに問題文の主題が浮かび上がってきます。本文通読1回目と設問通覧で主題は何かを答えさせ、把握が不十分であればヒントを与えながら再考させます。
個々の設問において、たとえば、A君の気持ちが問われていれば、「A君の描写部分を探す」という課題を意識させます。
また、意味段落に分ける設問があれば、「場所や時間などが大きく変化しているところ発見する」という課題を意識させます。
このとき、正解への手がかりはほとんど問題文の中にあるという前提を繰り返し強調します。
このように、主題を把握した上で、個々の設問内容をしっかり把握し、各設問ごとに、どのように手がかりを探しだすかを課題としてしっかり意識させます。
3 2回目は教師が音読します。読みながら、内容をより詳細に把握させるために、様々な質問を試みたり、理解しにくいところに解説を加えます。
(本文通読2回目・内容検討)
重要な指示語が出てきたらその指示内容を答えさせます。
難解な語彙は意味を噛み砕いて説明します。この場合、説明に抽象的な漢語を用いることは絶対に避けます。必ず小学校低学年でもわかる
やさしい大和言葉
を用います。極端なケースでは、理解不能な抽象語を聞かされたとたんに頭の中が真っ白になり、教師との心理的な距離が遠くなり、学習意欲を一気に失ってしまう生徒さえいます。よく注意してください。上手に説明しようとする必要はありません。不器用でもよいのです。相手と自分の成熟度の違いをよく認識し、相手の立場にたって適切に言葉を選ぶ繊細さが絶対に必要です。
自分の説明がうまく伝わらないことを相手の理解力不足のせいにするようでは、そもそも教師として失格と言わざるを得ません。そのような方は他に仕事をお探しください。
設問を解く手がかりになりそうなところを発見したら、必ず
傍線
を引かせます。
4 設問群の中で、解きやすいものと解きにくいものとを判別し、順序をつけて、解きやすいものから解答させ、これに解説を加えます。
(段取設定・解説)
大問中のすべての設問を解かせてから一括して解説する方法と、1題ごとに解説する方法とがありますが、何れが授業の進行上うまくいくかは、問題の内容や生徒の性格などによって異なりますので、実際に試みた上で、テンポよく進行し、集中力が高まる方を選びます。
解答時間はあらかじめ決めておいた方がよいでしょう。時間内に解答できない場合は、若干延長するなど、適宜に対処します。
ただし、基礎力養成の段階では、あえて時間制限を設けず、答が出るまで考え抜かせる方法が有効です。
正答の場合…なぜそのような答えになったのか、根拠を説明させます。的確な説明であれば大いに誉めます。根拠が曖昧で、まぐれ当たりと思われる場合は、質問や説明をからませながら納得がいくまで再考させます。
誤答の場合…誤りの理由をまず生徒自身に考えさせます。この場合、多少時間がかかっても、正解にたどり着くまで持続させます。中途半端に切り上げると、学習に対する緊張感を損なってしまう危険があります。
ただし、設問の難度が生徒の能力を大きく超えていると判断される場合は、自信を喪失させないために、難問故に解けなくても気にする必要のない旨を納得させてから正解を示してしまう方がよいでしょう。そしてその種の設問を今後の克服すべき課題とします。
論説文
筆者の意見(主張)には原則としてその根拠が示されます。
話題と結論、および結論に至る根拠をしっかり把握させます。
結論とはすなわち筆者の「意見」です。また、その根拠をわかりやすく説明するために、
様々な具体例や事実が示されます。
読解に際しては、上記の
「事実」と「意見」の区別
が極めて重要なポイントになります。
1 生徒に問題文全体を黙読させます。
まず第一段落を読んで話題を把握させ、次に最終段落を読んで結論を把握させます。最初と最後の段落に話題と結論が見出せない場合は、順次近辺の段落を調べさせ、それらを発見させます。
結論が最終段落に提示されている場合
→
尾括型
結論が最初の段落に提示されている場合
→
頭括型
結論が最初と最後の両段落に提示されている場合
→
双括型
話題と結論が把握できた場合は、結論に至る根拠を見つけ出すことを意識させて、残りの段落を読ませます。
上記の方法で話題と結論がうまく見出せなかった場合は、それらの把握を念頭におかせたうえで全体を通読させ、全体的観察の中で発見に至るよう導きます。
2 設問全体を概観し、「手がかりの探し方」を課題としてしっかり意識させます。
詳細は「物語・小説」と同じです。
3 2回目は教師が音読します。内容を正確に理解させるために、様々な質問を試みたり、難解な部分に説明を加えます。
質問では「事実」と「意見」の区別を問うようにします。特に「意見」の部分をしっかり把握させます。なぜならそれが筆者の主張に他ならないからです。
「〜だから」「〜ので」のような理由を示す表現に注意させ、「意見」の「根拠」をしっかり把握させます。
「物語・小説」に比較して難解な語彙や抽象的な内容が多く含まれるので、生徒が理解できない部分は、特にわかりやすい大和言葉を駆使して、ていねいに解説を加えます。
内容が生徒の理解力を大きく逸脱している場合もあります。このような場合は、単純化や比喩などを用い、説明に工夫を凝らします。
4 設問群を一覧して難易を判別し、易しいものから順次解答させ、これに解説を加えます。
5 以下、詳細は「物語・小説」と同様です。
説明文
正解への手がかりはすべて問題文の中にあるという前提が、最も典型的に現れるジャンルです。
「事実」の説明が中心になります。まだ知識が乏しい小学生にとって、記された「事実」についての具体的なイメージを思い浮かべることは困難な場合が多く、苦手意識を持つ生徒も多いようです。それだけにしっかりと手順を踏んで読み進むことが大切です。
説明文は、結論そのものは極めて単純明快です。したがって、まず話題とその結論をしっかり押さえます。
話題に関連した予備知識を準備しておくと、説明がわかりやすくなり、また深みが出ます。
話題・結論・根拠・定義
、これら4点を確実に把握します。
1 生徒に問題文全体を黙読させます。
冒頭に「話題」、末尾に「結論」、そして中間に結論の根拠である「詳しい説明」という三段階の構成がほとんどです。
第一段落を読んで話題を把握させ、次に最終段落を読んで結論を把握させます。詳細は論説文と同様です。
2 設問全体を概観し、「手がかりの探し方」を課題としてしっかり意識させます。
3 2回目は教師が音読します。途中、様々な質問を試みながら、話題・結論・論拠・定義をはっきり把握させ、難解な部分には説明を加えます。
「詳しい説明」を述べた部分の、各段落の冒頭(あるいは内部)に、「第一に」「第二に」「始めに」「次に」「また」といった話題の区切りを示す言葉があれば傍線を引かせ、そこに述べられている個別の話題を把握させます。
すなわち、本文全体の
「大きな話題」
と個別の
「小さな話題」
をそれぞれしっかりと区別して把握させます。
このようにして、
全体の話題、個別の話題、結論
の3要素をしっかりと把握すれば、最初は複雑に見えた全体像がシンプルに再把握でき、「よくわかる」という安心感を持って内容検討に着手できます。
重要なことがらの
「定義」
を把握します。すなわち話題やそれに関連した重要なことがらの意味がていねいに説明されている場合が多いので、これをしっかり押さえます。特に、
「〜とは」
という表現に注意し、それに続く定義の説明部分には傍線を引きます。
4 設問群を一覧して難易を判別し、易しいものから順次解答させ、これに解説を加えます。
5 以下、詳細は「物語・小説」と同様です。
随筆文
自由に筆者の意見や感想を述べたもので、根拠の提示にはこだわりません。
淡々と事実を描写した見聞主体の文章もありますが、どちらかといえば「意見」が中心となります。
前半が筆者の体験した事実、後半がそれに関する筆者の感じ方や意見という構成が多い。
結論が述べられている中心段落をしっかり把握します。
読解の手順は「論説文」や「説明文」に準じます。
紀行文
「説明文」と同様に事実の描写が中心となりますが、筆者の感想部分もしっかり把握します。
筆者が訪れた場所はもれなく把握し、マークします。特に
訪問の順序
に注意します。
読解の手順は「論説文」や「説明文」に準じます。
詩
日本の作品はほとんどが叙情詩です。しかし、正解に至る根拠が客観的なものでなければ入試問題として成り立ちません。したがって、正解へのプロセスは、今まで述べてきた方法と基本的には同じです。必ず本文の中に正解への手がかりを見出すようにします。
詩の形式(自由詩・定型詩等)あるいは表現技法(比喩法・倒置法等)など、知識関連の設問が多いので、よく理解して確実な得点源とします。
漢字
漢字は計画的に反復学習を進めます。放任主義ではうまくいきません。
旺文社の「でる順」をマスターすればほぼ完璧でしょう。
書き順も正しい順序で指導してください。旧文部省の定めた「筆順指導の手引き」はあくまでひとつの基準であって、それ以外の筆順も容認されるのですが、現実にはこの「手引き」が絶対化しています。
「国語」と「受験国語」
物語・小説
論説文
説明文
随筆
紀行文
詩
漢字
国語はこうやって教える
受験国語の教え方・モデルケース
個別指導の場合