土づくりは、耕地に連年良質の堆肥を施用し、土壌の物理、化学、生物(微生物)性を改善し、作物の栽培しやすい環境づくりをねらいとする物である。さまざまな土壌改良資材はあっても良質堆肥に勝るものはない。良質堆肥づくりに励みたい。
土壌は常に有機物の施用を求めてはいるが、未熟の有機物がそのまま施用されると弊害が生じるので、これを堆積し、微生物の働きによって発酵分解させることに堆肥化の意義がある。
つまり堆肥化の目的というのは、
@有機物の炭素率を20〜30程度にすることにより、有機物施用後の激しい分解や、作物を窒素飢餓から守る。
A有機物には有機微生物や雑草の種子などが多く含まれており、これを高熱で処理する(殺す)
B有機物にはフェノール性物質、樹脂など多くの作物生育有機物質が含まれているので、これを発酵分解(解毒)して障害を未然に防ぐ。
C有機微生物を大量に増殖させ、これを耕地に接種し、土壌微生物の生態的安定を図り、連作障害を軽減する。
1堆肥の出来る過程
堆肥の原料である植物や残渣や、家畜ふんに含まれているオガクズなどの有機物の大部分は、タンパク質、炭水化物(糖類およびこれが変化したヘミセルロース、セルロース)それにリグニンである。
これを堆積し、一定の条件(堆肥化の設計)を与えてやると、微生物の働きが活発となり、有機物は、中間の生成物をつくるなど、やがて水と炭酸ガスとなってその一生が終わる。
堆積された有機物中の窒素の大部分は菌体またはその遺体として取り込まれ、炭素の大部分は菌体または腐植として存在するようになる。そして、この過程が堆肥の腐植化に必要な工程なのである。植物に含まれるリグニン(植物の繊維)様物質が、微生物菌体に由来するタンパク質と複雑に複合(重複)して腐植ができる。この真正の腐植が地力として理解されている物質なのだ。
2堆肥づくりと微生物
土壌には目に見えない小さな生物が数多く働いている(生存している)。これを細菌、放線菌、糸状菌および小動物などに分類し目に見えない社会がよく理解されるように研究されているが、堆肥化には必ずこれら生物の働きがなければならない。堆肥化に関係する微生物は大部分が好気性(空気を好む)のものであり、一部嫌気性の物が作用する。有機物は微生物の食べやすいものから分解を受け、やがて植物繊維のセルロースやリグニンが残る。有機物中、微生物の食べやすいエサというのは糖、デンプン、アミノ酸、タンパク質などである。したがってこれらエサは、糸状菌(カビ)や細菌によって激しく分解され消耗する。この分解に関与した微生物は、やがてエサ不足となるであろう、次に植物繊維を分解する微生物にバトンが渡される。このような複雑な堆肥化に関与する微生物の遷移(サクセッッション)には一定の法則が支配している。
●分解を三つに分けて理解(糖やデンプン、タンパク質など)
有機物中、微生物の食べやすいエサはタンパク質、アミノ酸、糖質などであることは前記してある通りである。この分解時期には、好気性菌の糸状菌や細菌が盛んに発育し、呼吸による熱が発生し、堆肥の温度は上昇するときである。
●セルロースの分解
次の段階はセルロースの分解期である。セルロースの分解は堆肥化の主たる役割であるが、セルロースはリグニンやヘミセルロースに強く保護されているため、(そのような形になっている)この強い結合組織を解ぎほぐしてやりたいのだ。
石灰質を添加してヘミセルロースを分解し、セルロースの微生物分解を助ける方法などは古くから試みられている方法である。
堆肥の温度が60度を超えていると、この中では一般の分解菌の活動は極端に抑止される。
放線菌(テルモアクチノミセスなど)は高熱菌でヘミセルロースを分解し、セルロースをむきだしにしてくれる。この菌は好気性菌で、周りの酸素を消費し、酸素不足となると、そこに嫌気性菌のセルロース分解菌(クロストリジウムなど)が働きやすくなって、堆肥の熟成は進む。
水分が多ければ、好気性菌の働きが悪くなり、反対に少なければ、好気性菌だけで堆肥を作ることになって効率が悪く、その品質もよくない。水分の過不足は大切なことだ。
さて、ヘミセルロースやセルロースの分解がピークを超えると、堆肥熱はゆっくり下がってくる。リグニンの分解が始まるのだ。
●リグニンの分解
植物には骨がない。動物の骨格に等しい物がリグニンである。
リグニンは通常の微生物では分解できない。この分解は主としてキノコの仲間(担子菌)による仕事となる。リグニンの分解はゆっくり進む。
堆肥の温度も低下し、セルロース分解の中間生成物や、これまで分解に参加してきた数多くの微生物、この微生物をエサにしてきたミミズや小動物も多くなる。微生物同士の拮抗、食い合いも生じ微生物の遺体が蓄積してくる。堆肥中の窒素の大部分が微生物の遺体で占められるようになれば、それは良質の堆肥である。
●モミガラ堆肥
モミガラはその成分組成に多少の違いはあるが、窒素含量0.36〜0.55で平均0.48程度。炭素含量は平均で76内外というところだ。稲ワラに比べて炭素率がやや高く、麦わらに比べればやや低い傾向にある。カリ含量は稲ワラの四分の1〜五分の一であって、石灰や苦土などの含有は少ないがケイ酸は三〜四倍も多く持っている。
有機物不足とカリや苦土の過剰に悩んでいる日本の農地に対し、繊維とケイ酸を多く含むモミガラは願ってもない良質堆肥づくりの材料である。
資材 | 添加物 | 水分 | VS34 | 備考 |
モミガラ 1000kg |
ケイフン 100kg 米ヌカ 30kg |
60% | 2〜3袋 | 水分を含ませるため工夫する 切り返し2回 60〜70日出来上がり |
農学博士 江井 兵庫先生 のお話
●作り方
表にあるようにモミガラにケイフン、米ヌカ、VS34を添加して、踏みつけながら水をかける。水分60%(手でにぎると水がしたたる)にして、モミガラ、添加物がよく混ざるように撹拌混合する。
他方、古い木材などを利用して枠を作り、内側に使用済みのビニールを張って発酵室をつくる。水分と添加物で調整されたモミガラを部屋に運び、要所、要所を強く踏みつける。最後に覆いをする。
二、三日で堆肥温度は七十度を突破する。モミガラの表面にある脂質(水を跳ね返す物質)が溶け、モミガラはアメ色の美しい艶のあるものになる。第一の工程は、高温で処理し、モミガラの表面にある脂質を分解、土壌に施用した後、これが支障なく腐植化することをねらいとする。
中心部は白い粉をふいたカビのようなものが広く分布し、焼け状態となっている。三週間目に切り返しを行う。焼けたところに水分を補給し、1トンのモミガラに30kgの米ヌカを添加して再発酵を促すのだ。
再び高温となる。一ヶ月経過したところで最後の切り返しを行う。過燐酸を1トン当たり20kg混合して熟成を図るのである。
以来、一ヶ月以上常温で仕上がったモミガラ堆肥は極上のものである。育苗や施設の土づくりに使用したい。10アール7トンまでは土壌の混乱なしに地力となる。
注 VS34は、ストレプトマイセス、シウドモナス、バチルス、ペニシリウムなど。堆肥完熟のため必要な有効微生物群である。ゼオライト、バーミキューライト、炭の粉などの多孔質を利用して、1グラム当たり50億ほどの胞子を吸着している。
●バーク、オカクズ堆肥
資材 | 添加物 | VS34 | |
木質、モミガラ 1000kg |
ケイフンまたは米ヌカ 200〜250kg |
3袋 | 木質の場合切り返し2〜3回 出来上がり 約6ヶ月 モミガラの場合切り返し1〜2回 出来上がり 90日〜120日 |
ワラ、落ち葉 1000kg |
ケイフンまたは米ヌカ 100kg |
2袋 | 切り返し 1回 出来上がり 45日 |